昨年から趣味で畑を始めて、おかげさまでおおよその作物が期待以上に収穫できたのですが、2つだけ期待以下のものがありました。その一つがサツマイモ(鳴門金時と安納芋)です。
土つくりの際に「サツマイモは肥料は入れないくらいの方が良い」「多いとつるボケしてイモが取れない」というネットの情報にびびって(^^;、極少量しか化成肥料を入れなかったのです。
そうしたら、まぁ食べられないことも無く、美味しかったのですが、地上部は伸びず、イモも小さくで(^^;。やはり地上部をそこそこ育てるために、ある程度の肥料は必要だなと勉強になったのでした。
そこで今年はつるボケ現象が観たくて(笑)、ちょっとした実験をすることにしたんです(笑)
昨年の様子
つるボケにびびって、極めて少量(3 m X 60 cmの畝に半掴みくらい)しか化成肥料(8-8-8)を入れずに作った鳴門金時は以下の通りでした(^^;
まぁ、ご覧の通り散々な結果でした(^^;
実際にはもう少し大きいのもあったりして、地上部の貧相さに比べれば良くできていたとも言えないこともない…かな?と思いましたけれど(笑)
まぁ、ギリで某家族様や甥っ子姪っ子にサツマイモ堀りを楽しんでもらえたかな?程度でした。
実際につるボケ現象は起こるのか?論文などの調査。
さて、昨年サツマイモ栽培を始めるに当たって、いくつかのブログなどを参考にさせて頂いたのですが前述の通り、頻繁に「肥料は少なく」「窒素分を抑えて」などの表記がありました。
また、つるが生い茂った画像と共に「多分つるボケしていると思う」とか、ほとんどイモができていない画像と共に「おそらくつるボケ」との記載も見られました。
そんなに簡単になるもんなの!?との思いで初年度の肥料投入は相当に遠慮してしまったのですが、今年は違います!
つるボケの実際を、論文などの文献で現状把握しておこうと考えたんです。
代表的なものを2つ挙げますが、先ずは以下の日本語報告書。記載内容からおそらく2013~2014年ころ発表のものだと思われます。島根大学生物資源科学部からの発表です。
窒素施肥量がサツマイモの塊根生産の及ぼす影響
門脇正行 et al
Effect of nitrogen fertilization on tuberous root production of sweetpotato(Ipomoea batatas Lam.)
単位が明確になっていなかったりで、おそらく付ですが、以下のような内容でした。
- 以前から窒素過多で地上部は繁茂するものの、塊根が肥大しないと言われている。
- 近年作出された品種には、耐肥性(窒素量にあまり影響されない)があると言われている。
(おおっ!そうなの!?) - 古い品種(紅赤)では窒素量10 kg/10a(わかりにくいので換算すると10 g/m2)以上でつるボケが発生しており、ベニアズマ・べにはるかでは生じていない。(リンとカリは15 kg/10a施されています。)
これは意外だったことで、後でも記載しますが、窒素10 g/m2は結構多いと感じます。8-8-8の化成肥料ですと、125 g/m2程度撒く量なので。
次に比較的最近の中国からの論文。耐肥性の有無で比較試験をしている面白い論文です。
Differences between nitrogen-tolerant and nitrogen-susceptible sweetpotato cultivars in photosynthate distribution and transport under different nitrogen conditions
Wenxue Duan et al
PLOS ONE March 29, 2018
では、簡単に論文内容をまとめてみましょう。先ずは添加窒素量とイモ重量の関係について。
最近の品種ではどの程度の窒素添加でいわゆる「つるボケ」が起こる可能性があるのか、論文内の品種で見てみましょう。
品種 | J26 | X32 |
特徴 | 節間長い | 節間短い |
株あたりイモ重量maxとなる窒素量 | 3 g/m2 | 9 g/m2 |
株あたりイモ重量減少が顕著に観られる窒素量 | 12 g/m2 | 12 g/m2 |
Wenxue Duan et al
ここで節間が注目されていますが、一般的にサツマイモの地上部節間が短い方が、つるボケしにくいとされているんですね。
なので、節間が長い品種では3 g/m2(8-8-8肥料では37.5 g/m2)で、節間の短い品種では9 g/m2(8-8-8肥料では112.5 g/m2)で収量が最大になっているようですが、双方とも12 g/m2(8-8-8肥料換算で150 g/m2)になると影響が確実に出てくるようです。
また、その影響も節間の長い品種の方が大きく、節間の短い品種よりも大きな減収となっています。添加窒素量0 g/m2の収量と比較し、12 g/m2添加の際には、それぞれ18.89~31.88 %、4.82~14.40 %の減収となると観察されています。
また、窒素が24 g/m2添加された際にはそれぞれ28.94~58.00 %、12.96~39.91 %も減収することが観察されているようです。
ただ、いくつかのblogなどで、まったくイモができていない状態や、ヒョロヒョロなものがいくつか付いている状態をもって「つるボケ」した、と記載しているものを見ているのですが、つるボケとはそこまで極端に起こるものではないのだな、というのが印象です。
全くできなかったり、ヒョロヒョロ数本などの現象が起こるのは、また別の問題かもしれません。またはホントに多くの肥料を入れてしまったか?だと考えられます(^^;
節間の長さで窒素感受性の高低が生じることは、添加窒素量に依存して株地際と株先端のアミノ酸、K+、ショ糖、および固定化炭素の濃度勾配がどう変わるのかで説明されています。そして節間が長い方が、添加窒素量が多い時にそれぞれ不利な状態になることが示されています。
感覚的にわかりやすくまとめてしまうと、節間が長いものよりも短い方がイモへの各成分の転移がスムースに行われるため、添加窒素量の影響を受けにくいということのようです。
つるボケ実験準備(畝立て)
これらのデータを元に、つるボケ現象を観察するための実験を設定しました。
畝は昨年サツマイモを栽培した場所と同じ場所に設定しました。先ず牛豚ふんmix完熟たい肥と苦土石灰を加えて良く耕し、1週間後に東西方向、畝長さは320 cm、畝幅は70 cmの畝を立てました。
この畝に、端から70 cm、60 cm、60 cm、60 cm、70 cmとなるように区画を設けました。そこに上の写真で言えば、左から200 g/m2、100 g/m2、50 g/m2、25 g/m2、0 g/m2となるように8-8-8の化成肥料を撒きました。
添加窒素量としてはそれぞれ16 g/m2、8 g/m2、4 g/m2、2 g/m2、0 g/m2となります。
設計としては、化成肥料100 g/m2(窒素量8 g/m2)までは収量が増加し、化成肥料200 g/m2(窒素量16 g/m2)で減収に転じることを想定しています。
以下にそれぞれの区画に化成肥料を撒いた様子を写真で示します。土が乾き気味なのと、写真の色味が変わっていたりで見難いですが、ご了承ください。自分の感覚では100 g/m2でもかなり多く感じます。普段の土つくりで撒いているのは50 g/m2くらいな感じです(笑)
これを区画間で混ざらないように、1区画づつ耕していきます。
最後にならしてマルチを張って完成です。
つるボケ実験準備(植え付け)
作成した畝にイモつるを植えていきます。今回イモつるの到着に時間が掛かったので、畝作成から2か月程度経過してしまいました(^^;。もっと早くこの記事もアップしたかったんですけれどね(^^;
植え付けから記事にするまでも時間掛かっちゃいましたけどね(^^;
使用したサツマイモ品種は2種類で、特に節間が長い短いは考えず、今年食べたい品種(笑)を用います。「シルクスイート」と「べにはるか」です。だって、発注時に節間の長短なんてわからんもん(笑)
植付は株間30 cm、南側(手前)に「べにはるか」、北側(奥)に「シルクスイート」です。
それぞれ10株です。これによって、各区画2株づつ植え付けられていることになります。
もちろん根の張りまではコントロールできないので、隣の区画に入り込むこともあるのは当然ですが、むしろこれによって、窒素濃度0~200 g/m2までのグラジエントが設定できているとも考えられます。考え前向きです(笑)
途中追肥するかどうかは追々考えます(^^;
さて、結果はどうなるでしょうか!?秋の収穫をお楽しみに!
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