昨年(2021年)のナス栽培では9月以降でアザが目立つようになり、キイロアザミウマの被害が考えられましたが、今年(2022年)ではその被害が観られなくなりました。
今年はいくつかの対策を行ったのですが、もっとも、年によってもともとのアザミウマの発生量が変動しているのは当然なので、その対策が奏功したかはわかりません(^^;
力を入れたのはキイロアザミウマの土着天敵であるヒメハナカメムシ類を殖やす対策です。
別記事では「ヒメハナカメムシ類のバンカープランツとして「繁殖しやすい」植物」について書きましたが、今回は「(理想的には)作物に寄生しない土着天敵の餌が集まり、それを求めて土着天敵が寄ってきて、定着・増殖する」という意味でのバンカープランツについて考察したいと思います。
ヒメハナカメムシ類の餌が集まるバンカープランツ
バンカープランツとは?やヒメハナカメムシ類については、以前の記事ヒメハナカメムシのためのバンカープランツⅠに記載していますのでご覧くださいね。
今回はヒメハナカメムシ類の餌が集まる植物について検討してみたいと思います。
ここでもやはり畑やその周囲に定植しても問題が無い植物に限定して書いていきましょう。つまり畑作業を邪魔せず、匍匐性や背の低い植物ですね。
また、もう一つの要件としては、防除が必要な作物が育つ前にその植物が成長し、ヒメハナカメムシ類を定着できればベストと言えるでしょう。
2022年は先ずは以下の論文を頼りに、いくつかのバンカープランツを植えてみました。
野菜の生物的防除のための捕食性天敵 ヒメハナカメムシ類の保護に適した地被植物の選抜
岡山県農業研報1 : 5-12, 2010, 長森茂之 et al
この論文では26科62種の購入可能な地被植物(背丈が低く、畑で大きな影響を及ぼさないと考えられる)について評価しています。さらに2年目ではこの中から5科7種に絞って詳しく評価していました。
絞られた7種はバーベナ・タピアン、スカエボラ、ウエデリア、オステオスペルマム、ローマンカモミール、ヒメイワダレソウ、ニーレンベルギアでした。
評価項目は、餌となるアザミウマ類、アブラムシ類、ハダニ類の発生状況、ヒメハナカメムシ類の数、農業害虫となりえるカスミカメムシ類の数、地被速度、背丈です。
特に餌となるアザミウマ類、アブラムシ類、ハダニ類の発生状況、ヒメハナカメムシ類の数、農業害虫となりえるカスミカメムシ類の数をイメージで分かりやすいように、自分なりにまとめてみました。
植物種 | ミナミキイロ アザミウマ | その他 アザミウマ | アブラムシ類 | ハダニ類 | ヒメハナ カメムシ類 | カスミ カメムシ類 |
バーベナ タピアン | + | ++ | - | - | ++ | +++ |
スカエボラ | - | ++ | - | + | +++ | ++ |
ウエデリア | + | ++ | - | +++ | + | + |
オステオ スペルマム | +++ | ++ | + | - | ++ | + |
ローマン カモミール | ++ | +++ | - | + | ++ | + |
ヒメ イワダレソウ | - | + | - | ++ | + | ++ |
ニーレン ベルギア | + | ++ | - | + | + | + |
岡山県農業研報1 : 5-12, 2010, 長森茂之 et al
先ず重要なのはヒメハナカメムシ類の数ですね。候補としては++以上が望ましいと思われます。
次に他の農作物に影響を及ぼさないヒメハナカメムシ類の餌が集まる植物であること。これはその他アザミウマ類が多いことが望ましいと言えます。
アブラムシ類やハダニ類は餌として評価はできますが、場合によっては農作物に影響があります。
また、可能であれば農作物に影響のあるカスミカメムシ類が少ないことも望ましいと言えます。
これらの条件を高度に満たしているものはないのですが、私としてはバーベナ・タピアン、スカエボラ、ローマンカモミールが候補と言って良いかと思いました。
実際に論文の結論でもこの3種が有望であると結論付けられていましたね。
導入した3種のコンパニオンプランツ
そこで上記で選定した3種、バーベナ・タピアン、スカエボラ、ローマンカモミールを導入してみました。
上段左からスカエボラ、バーベナ・タピアン花色が異なる4株。下段左からローマンカモミール、カラフルクローバー、ローマンカモミールです。
クローバーについてはヒメハナカメムシのためのバンカープランツⅠで記載していますよ。
ただ、残念なことにヒメハナカメムシ類をコンパニオンプランツ上で見たのは、今年は1回だけでした(^^;
ちなみにそれぞれの栽培方法は別記事で書いていこうと思います!
ちなみにバンカープランツとして重要な「防除が必要な作物が育つ前に成長し、ヒメハナカメムシ類を土着させる」という意味では、まったく問題ありません。4月中に植えればもう十分ですね。特にタピアンは繁殖力抜群です。
そしてその効果は?
2022年に今回の対策を実施してみたのですが、冒頭に書いた通り、ナスのアザミウマ被害は激減しました。
ただ、アザミウマやヒメハナカメムシ類の数などを実際に数えた訳ではないので、今回の対策が奏功したからなのかは不明です(^^;
今年(2023年)の栽培でも被害が観られなければ、ある程度以上の効果があったと言えるかもしれません。
ただ、実際のバンカープランツとしての効果はさておき、バーベナ・タピアンは地被速度が結構早いので、雑草防止に役立ちそうです。
スカエボラは冬越しできなかったようです。ローマンカモミールは越冬できましたが、タピアンほどの地被速度はないですね。
そして別の視点から見てみますと、これら3種の利点はアブラムシ類が付かない(付きにくい)ことと言えるでしょう。
無農薬で畑をやっていますと、どうしてもアブラムシが付きます。そして付きやすいのは畑の辺縁、つまり外部の雑草地帯と接しているところが被害を受けやすいです。
そこでこれらのアブラムシが付きにくい地被植物の活用です。これらを雑草地帯と作物の間に植えていけば、相当の効果が得られると思われます。
アブラムシ自体が歩いてくることもあるでしょうが、離れた場所への寄生は羽がある個体が飛んでくるか、アリが運んでくるかなどなので、少なくとも運ばれてくる可能性は低くすることはできるでしょう。
そういった使い方もしながら、生物多様性を失わない、観てても楽しい畑作を行っていけたらと思います(^-^)。
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