秋口になると目につくようになるケムシ・イモムシと言えば、フクラスズメの幼虫。ど派手なオレンジ・黒・シロの幼虫で、しかもそれなりに大きいので、とても目立ちます。集団発生もしますしね(^^;
そんなフクラスズメの幼虫に想定外の摂食行動が観られたので、周知の意味も込めて記事にしてみました。
フクラスズメとは?
フクラスズメはヤガの仲間の蛾で、容姿が寒さで毛を逆立てて丸く膨れたスズメを連想させることから付けられた名前のようです。
実際成虫は私もおそらく見たことない(「おそらく」というのは、あまりに目立たない蛾なので、覚えがないだけかもしれない)ので、写真も無いのですが、その幼虫は容姿や行動から、鮮烈に記憶に残る昆虫だと言えます。
ほぼ国内全てに分布し、日本以外にも周辺国やアジアでも広く見られます。
成虫の蛾は3-4 cm程度だそうですが、幼虫は7-8 cmにもなります。毒々しい外見ですが、毒はないので、手で触っても大丈夫(注意)です。
食草(餌)は?
成虫は熟した果実の汁や樹液に集まるそうです。このため、私も過去のカブトムシやクワガタ採集の際に見たことが、もしかしたらあるかもしれません(^^;
幼虫はイラクサやカラムシなどのイラクサ科の葉を食べます。かなりの偏食家で、イラクサ科以外はほぼ食べない、といくつかの図鑑やサイトに書かれています。(がしかし、実は違います!!!)
その目立つ姿や特殊な行動から、自分でも何度か調べたことがありまして、他の草は食べないと信じていたんですよね。
イラクサ科は畑では雑草といえば雑草なので、それを好んで食べる彼らは益虫度1(10段階で最低)くらいには考えていたんです。
まぁ、そこら中にある草ですが、畑には滅多にありませんし、有ってもすぐに刈ったり抜いたりしてしまうので、益虫と言えば益虫かな?くらいのスタンスで。
幼虫のど派手な生態
先の写真のように毒々しい外見なので「まぁ嫌われるだろうな」というのは分かります(^^;
しかしさらに彼らには嫌われて然るべきど派手な生態があるのです。以下に挙げてみますね。
- 食草上に集団で発生することがある。
- 襲われたり驚いた時に、頭を高速で左右に振って威嚇する。それを集団で行う時がある。
- さらに威嚇時に口から緑の液を吐き散らかすわ、うんちをポロポロ出すわ。
- 食草を食べつくすと、集団がゾロゾロと次の食草を求めて徘徊する。
集団発生は以前自分も見たことがあり、あまりに衝撃的な光景だったので、忘れることができません。7-8 cmのこのいかにも危険そうな外見のケムシが、一か所にそれこそ数百匹のレベルでいるんです。
さらに彼らは意外と敏感で、近くに寄っただけで頭を鎌首のように持ち上げた特異な威嚇姿勢を取ります。
そしてさらに刺激すると、頭を左右にかなりの高速でブンブン振り回すのです。その振動が伝わり、周りの幼虫も一斉にブンブン振り回すので、集団で行うと草全体がワサワサ揺れます(^^;
さらに!そのブンブン威嚇中は口から緑の液体を吐き散らかすんですよ。うんちもポロポロ出しながら! あぁ…恐ろしいですね。
そして集団で食草を茎と葉脈が残るまで徹底的に食べつくすと、次の餌を求めて全員が草を降り、ばらばらに徘徊し始めるのです。しかも結構なスピードで(^^;
先日畑で観察されたこの徘徊では、1平米中に5-10匹くらいいました。見る人が見たら、相当に気持ち悪いでしょうね。近くのイラクサを食べつくしたか、刈られたかしたんでしょう。
まぁでもイラクサ科しか食べないし、「作物には害がない」とその時は思っていたので、放っておいたんですよね。
あんなことが起こるとは思いもせずに…。
フクラスズメ幼虫、驚きの害虫化!
集団徘徊を目撃してから2日後、まぁ食草もないし、鳥にも食われるだろうし、おおよそ残っていないだろうな、と思いながら畑に行ってみると、白ナス、翡翠ナス、タイナス株上を中心にまだ結構残っていました。
そこで近づいてみると…彼らの周辺には徘徊しているだけとは思えない糞の量と、ナスの葉に大きな食痕があるではないですか!
そこで威嚇していない幼虫をそっと観察してみると…現行犯発見です。
これまで見てきたサイトや図鑑は何だったのでしょうか!?
突然フクラスズメ幼虫は害虫枠、しかも結構な害虫度5-6くらいに変更です。集団での摂食の速さや骨まで(茎や葉脈がようやく残る程度まで)しゃぶり尽くす彼らを知っていますからね。
急遽排除です。手で摘まむこともできますが、緑の吐しゃ物で汚れるので、ビニール袋の中に落とします。彼らは威嚇もしますが、衝撃を与えるとポトリと落ちるので。
採集した彼らは鳥の餌台へ。おそらくすぐに逃げてしまうと思われますが、できれば鳥たちに彼らがいることを認識してもらい、食べ尽くして欲しい!
毒々しい体色なので鳥も避ける傾向があるようですが、食べられると知った鳥は、積極的に食べるそうなので、彼らの学習に期待です。
フクラスズメの幼虫に気を付けよう!
これまで害虫と認識していなかったフクラスズメの幼虫ですが、それなりの害虫であることが判明しました。
もっとも、基本的には彼らもイラクサやカラムシがあれば、それを好んで食べるので、あえてナス科を選んで食べている訳ではないと言えるでしょう。
そうであれば、これまでもナス科の害虫として認識されていたでしょうから。
そして、見たところ同じナス科でもトウガラシ類やピーマンなどの葉は食べていないようです。さらに普通のナス(千両)葉にもいるのですが、数は少なく、具合も悪そうで、それほど積極的には食べていない模様。
通常のナスに少ないのは、単に徘徊開始点(流星群で言えば放射点)からの距離の問題かもしれませんが、ナスニンなど紫ナスの成分に忌避作用があるのかもしれません。
ただ、集団で徘徊した先にナスがあれば、ちょっと気が付かない数日のうちにかなりの食害となる可能性はあります。紫系ではないナスでは確実にやられてますから(^^;
また、紫系ではありませんが、ブラジルナス(Jilo)は白ナス、翡翠ナス、タイナスのすぐ隣にあるにも関わらず、全く付いていませんでした。
ちなみに桑は食べるようで、桑園周囲のカラムシを食べつくした幼虫が侵入摂食した古い報告論文があります。
蚕糸研究 第110号 1979年4月 農林省蚕糸研究所
西 和文
https://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2010193737.pdf
ナスでも嗜好性選択や指向性のデータを取れれば論文にできそうだな。
何より彼らの徘徊を目撃した際には、微笑ましく見守るのではなく、警戒心を持つことが必要なようですよ。
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