昨年ナスの栽培を行い、夏前までは綺麗なナスができていましたが…。徐々にギザギザ傷が目立ち始め、秋にはほぼ全てのナスに傷が出てしまっていました。
これはアザミウマ(おそらくミナミキイロアザミウマ)の仕業と知り、農薬散布以外の対策はないものか?と調べてみると、土着天敵利用が有効だとのこと。特にヒメハナカメムシ類が期待大とのことで、今回これを効率的に畑に誘導する方法を探ってみたのでした。
ナス科だけでなく、ウリ科にも被害が大きいらしいですしね。
近年は体長がさらに大きく、害虫捕食能力の高い「タバコカスミカメ」が2021年に農薬登録されたようですが、東日本ではあまり天然にはいないそうで(^^;
バンカープランツとは?
ヒメハナカメムシ類に畑に来て頂き、かつ常駐して頂くには、バンカープランツの利用がオススメとのことで、先ずはバンカープランツとは何か?を調べてみました。
最初は適当にネット検索で調べてみましたが、wikipediaに記載されている内容など、後々「違うな?そうじゃないな?」というところもあり、一般には混乱して使用されている言葉のようです。
論文などでは、ゆるーく、と言いますか、広く「土着天敵を温存し、または増やして、害虫防御に利用される植物」と定義されているようです。
バンカーとはBanker(銀行家)からきているようですが、増やしてくれるようなバンカーなら、自分もお金を預けたい(笑)。
さて、そんなバンカープランツですが、畑初めの昨年は「(理想的には)作物に寄生しない土着天敵の餌が集まり、それを求めて土着天敵が寄ってきて、定着・増殖する」植物のことだと思っていました。
アブラムシの土着天敵のコレマンアブラバチの利用が有名ですね。
アブラムシ対策用「バンカー法」技術マニュアル
農研機構 2014年改訂版
https://www.naro.go.jp/publicity_report/publication/files/narc_BankerManual00-18.pdf
しかし他の論文を見てみますと、単純に「土着天敵の繁殖しやすい」植物もバンカープランツとして盛んに研究されていることがわかりました。
今回はヒメハナカメムシ類のバンカープランツとして、特に後者の「繁殖しやすい」植物に焦点を当てて書いてみたいと思います。
ヒメハナカメムシ類
その前にヒメハナカメムシ類について。
国内に土着していて、天敵として利用できるヒメハナカメムシ類は3種と言われています。
・ナミヒメハナカメムシ Orius sauteri
・タイリクヒメハナカメムシ Orius strigicollis
・コヒメハナカメムシ Orius minutus
特にタイリクヒメハナカメムシは生物農薬としても利用されていますね。ハウス内での利用などで、一定の効果を上げているようです。
3種とも、主に難防除害虫であるアザミウマ類の捕食性土着天敵です。その能力は以下の報告などでも明らかです。
ヒメハナカメムシ類のミカンキイロアザミウマ捕食数及び産卵数の種間比較
田中雄一 et al.
愛知農総試研報34:99-104 (2002) Res Bull Aichi Agric Res Ctr
餌にするのはアザミウマ類だけでなく、広食性で、ソフトボディな小さな虫(アブラムシ、ハダニや蝶目の卵など)も対象のようです。
アザミウマ以外の害虫も対象となると、益々魅力的な土着天敵ですね♡
ヒメハナカメムシ類の繁殖場所としてのバンカープランツ
では、効率よくアザミウマ(やアブラムシ、ハダニ、チョウ類卵など)の土着天敵であるヒメハナカメムシを引き寄せ、そして殖やす植物とは何でしょうか?
畑やその周囲での使用を考えると管理しやすい植物である必要があります。例えば匍匐性で作物の生育や農作業の邪魔をしないなどです。
また、さらに言えば入手しやすい・購入できる植物であることが求められます。いくら良くてもレアで山の奥地に入らないと採集できない植物では困りますよね(^^;
以下にここ10年くらいのそれなりにまとまった論文を挙げてみましょう。有名なマリーゴールドでも矛盾する結果などもあって、若干混乱するんですけれど(^^;
先ずは茶畑における11種の植物でのナミヒメハナカメムシの繁殖に関する論文。
Evaluation of Eleven Plant Species as Potential Banker Plants to Support Predatory Orius sauteri in Tea Plant Systems.
Ruifang Zhang et al
Insects 2021, 12, 162.
内容を簡単にまとめると以下の通り。
- 使用した植物は以下の11種と参考としたお茶の計12種。メハジキ、シロツメクサ、露地マメ科の3種、ビオラ、ダイズ、緑豆、小豆、ラッカセイ、インゲン豆。
- ビオラはふ化率は良いが、1.5日以内にすべてが1令幼虫の状態で死亡する。
- 成虫までの発生率は小豆、メハジキ、緑豆の順で優れている。
- メス一匹当たりの産卵数と産卵期間は小豆、シロツメクサ、メハジキの順で優れている。
- 世代あたりの生存率は小豆、メハジキ、緑豆の順で優れている。
- 総じて小豆、メハジキ、緑豆が優れるが、メハジキはアブラムシやうどん粉病に感受性が高いので、候補から外した方が良い。
こんな感じでしょうか。
これらを最終的に分かりやすくまとめたのが、次の世代に何倍になるか?(一匹が次の世代に何匹になるか)を示した値かと思いますので、以下に挙げてみますね。もちろんこれは自然界ではなく、閉鎖された単純系の中でです(^^;
植物種(Test Plant) | 総生産率(Net Reproductive Rate R0) |
緑豆 | 65.01 |
小豆 | 76.75 |
ラッカセイ | 44,58 |
シロツメクサ | 54.44 |
メハジキ | 72.89 |
ビオラ | 0 |
大豆 | 64.96 |
露地マメ科1 | 40.38 |
露地マメ科2 | 39.73 |
露地マメ科3 | 38.46 |
インゲン豆 | 35.86 |
茶 | 29.35 |
Ruifang Zhang et al
ここまでの結果を見ますと、ビオラを畑周辺に植えると、ナミヒメハナカメムシを減らしてしまう可能性がありますね。
また、小豆や緑豆、大豆(エダマメ)などを畑で併せて育てるのも良さそうです。また周りにシロツメクサ(クローバー)を植えるのも手ですね。
次に、ネットなどでヒメハナカメムシのためにあのコンパニオン プランツとして有名なマリーゴールドが良いとの記載がありますので、実際どうなのかを調べてみました。
Influence of Plant Physical and Anatomical Characteristics on the Ovipositional Preference of Orius sauteri (Hemiptera: Anthocoridae)
Liu Zhang et al
Insects 2021, 12, 326.
この論文では私の大好きなコリアンダー(パクチー)、マリーゴールド、アルファルファ、アリッサムで、ナミヒメハナカメムシの生殖に対する向き不向きを論じています。
結論を並べてみますと、以下の通りです。
- 産卵台としてナミヒメハナカメムシのメスはアルファルファやアリッサムに比べ、コリアンダーとマリーゴールドを明らかに好む。
- 今回と異なる結果も過去に報告されているが、植物体全体を用いたのは今回の報告である。
- ナミヒメハナカメムシが産卵に選ぶのは、気孔密度が高く(または気孔エリアが大きく)、繊毛密度の低い植物である。
- 維管束は固く産卵の邪魔になる(卵を据え置く場所がなくなる)ので、葉脈や茎の表面から維管束が深い方が良い。
- ふ化率もアルファルファは他の3種に比べて低い。
- 今回評価できた植物種は4種と少なく、また他の種でも今後評価をしていく必要があるが、少なくともヒメハナカメムシのバンカープランツとしてコリアンダーとマリーゴールドは有用であると言える。
と、いう訳で、ヒメハナカメムシを増えやすくするため、とりあえずクローバー、コリアンダー、マリーゴールドを植えることにしました。マリーゴールドはコンパニオンプランツとして既に植えていますけれど。
コリアンダー(パクチー)は食用のものに産卵されても困るので、種採り用、虫集め用のものをさらに増やそうと思います。
クローバーは四葉の出現確率の高い株を探してきて植えようとも思っていますが、園芸店で変わり種をグラウンドカバー用途にも使いたいので、6種計6株購入しました。
あとはジャガイモとニンニクの収穫後、大豆(エダマメ)とラッカセイを植える予定です。
彼らバンカープランツ候補たちが早々にがっつり増えて、しっかりヒメハナカメムシを呼んでくれることを期待しています!
ちなみにⅡもアップしましたよ!
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