東京蒲田のベトナム料理店「ミレイ」さんへ無農薬野菜を細々ではありますが提供していくことになりまして、何種類か種を頂いたんです。
その一つが何の種か全く不明でしたが、育ててみたら、ベトナムでRau dềnと呼ばれる野菜であることがわかりました。
そんなRau dền(ヒユナ・食用アマランサス)の栽培記録をお見せしますね。
Rau dền(ヒユナ・食用アマランサス)とは
Rau dền(ヒユナ)はヒユ科ヒユ属の植物で、園芸品種として良く知られたアマランサスの仲間です。ケイトウ(鶏頭)にも形態が似ていますが、ケイトウはヒユ科で属が異なります。アジアでの食用の種はAmaranthus tricolorやA.gracilisですが、今回はおそらく前者だと思われます。
日本ではあまり馴染みのない野菜ですが、中国では苋菜、英語でchinese spinachと呼ばれ、東南アジアを中心に良く食べられているそう。バイアムやシャンツァイとも呼ばれています。
葉の色はバリエーションがあり、株によって緑一色のもの、葉の付け根から中央が赤くなるもの、葉全体が赤いものなどがあり、その変化もグラデーションです。頂いた種からもいろいろな葉が現れました。
Chinese spinach(中国ホウレンソウ)とも呼ばれていますが、もちろんホウレンソウとは異なる種で、栄養価も鉄分など、ホウレンソウより優れている点もあります。
味はエグ味があるとも言われていますが、自分はそんなに感じませんでした。料理はホウレンソウと同じように、おひたしやスープ、炒め物など、いろいろと楽しめます。
ただ、赤の入った葉をスープにすると赤い色(ベタシアニン)が溶出して液が赤くなります。ベトナムで以前食べた優しい味のスープが赤かったのはこの野菜が入っていたからと思われます。
ベタシアニンはホウレンソウやスイスチャードなどにも含まれていますが、その含有量はRau dền(ヒユナ)では2~3倍にもなると言われます。
Rau dền(ヒユナ、アマランサス)のベタシアニンの機能については論文でレビューもあり、高い抗酸化作用、抗炎症作用などが知られています。論文は主に種の色素として記載されていますが、葉も一緒です。
Phytochemicals in quinoa and amaranth grains and their antioxidant, anti-inflammatory, and potential health beneficial effects: a review
Mol Nutr Food Res 2017 Jul;61(7). Yao Tang, Rong Tsao
栽培の季節は春から夏終わりくらいまでが良さそうです。後述しますが植物の性質もありますし、短日条件(日が短くなってくる)では花芽を出し、花を咲かせてしまいます。本来野菜としてはそうならない前が良いんじゃないかな。小さい株でも短日条件になると花を咲かせてしまう感じなので(^^;
珍しく市場に出ている際はどうもそれほど大きくない抜き株(せいぜい50 cmくらい?)で出ているようですが、育てると1.5 mくらいの高さにまで大きくなります。
ただ、大きくなっても葉はそんなに固くならないので、若い株とほとんど同じように食べられます。大きくした方がお得?ですね(笑)
Rau dềnの種まき
頂いた種を2022年6月11日に蒔いてみました。播種用セルトレイに種まき用土を入れ、土は5 mm程度掛けました。実はこの段階ではRau dền(ヒユナ)であることは分かっておらず、「謎の種」状態でした(^^;
ミレイのオーナーさんも「わからない」とのこと(^^;
種は黒くてツヤがあります。大きさは1 mm弱くらい。
播種後はA4を入れるコンテナにトレイを入れ、浅い腰水にして半日陰(一日2-3 時間程度日が差します)に放置しました。水は土の表面が乾きそうになったくらいで足し、完全に表面が乾燥しないようにしました。
Rau dền(ヒユナ)と判明してからですが、以降の種まきの際は覆土は薄っすら掛ける程度にしています。ケイトウは好光性種子ですからね。その方が確かに発芽率も良くなります。
Rau dền(ヒユナ)の育成
6月11日に蒔いた種は6日後の17日に発芽しました。発芽後は徒長しないよう、日なたに移します。
何の種か分からなかった段階では、赤い芽が出るのは想定外でした(^^;。
刺身のツマになる紅蓼(ヤナギタデ)の芽の色っぽい気もしたので、ベトナム料理で使われるRau rămかな?とも考えたのですが、結果違いましたね(^^;
そして発芽から7日ほど経つと、徐々に本葉も出てきて大きくなってきます。
そして本葉が…丸い(^^;。これはタデではありませんね(^^;。
ということで、いよいよ分からなくなりました。
ただ、まだ数%の可能性でタデかも?と思っていました。葉の付け根から中央が赤が強いので、これはタデのVマークの走りで、もしかしたら育つに従って葉が細くなるんじゃないかと。
そして育ってきた苗が混み始めてきたので、7月6日に移植して一株立にしました。
ここまで来ると、もう完全にタデではありません。しかしこんな特徴的な葉なのに、例えば「葉 緑 赤」などでググっても、いくら調べても分からなかったんですよね。
そうこうしているうちに、ドンドンと大きくなるので、7月16日には畑に定植しました。
この段階でネットでの名前調べを諦め、携帯アプリに頼ることにしました。
植物の写真を撮ると、名前を教えてくれるアプリ「Picture This」をインストールしまして撮ってみたところ…あっさり「アマランサス」という回答が!すごいねアプリ。7日間は無料お試しでした(笑)
そこからは早い!「ベトナム アマランサス」などで検索するとたくさん出て来まして、ついにRau dền(ヒユナ)であることが判明したのでした。
Rau dền(ヒユナ)は暑さにめっぽう強い、これこそ夏野菜!です。葉物が少ない時期なので、ありがたい野菜ですね。
2022年の夏(群馬県)はメチャクチャ暑かったので、Rau dềnも元気いっぱいでした。その育ちの速さを見てみましょう。7月25日撮影と28日撮影を並べてみました。わずか3日です。
全体のサイズを同じにしちゃったので、わかりにくいですかね?(^^;
Rau dền(ヒユナ)収穫
そして同日の7月28日、あまりに株が混みあってきたので、初収穫してみました。
ベトナムなどでは抜き株で売っているようですが、脇芽も出ていましたし、また脇芽も後日収穫できるかもと考えて、主幹だけを切ってみました。
実際に2週間後にも自分用に少し収穫できましたし、8月27日にはミレイオーナーさんもいらっしゃって、結構ごっそりと収穫できていました(^_^)
ただその後は成長が鈍っていき、収穫は難しくなりました。土も痩せたのかもしれませんね。
Rau dền(ヒユナ)に付く害虫
さて、Rau dềnにはどんな害虫がつくのでしょうか?
食べてみた感じでは(もちろんヒトの味覚と昆虫たちの感覚は大きく異なりますけれど(^^;)、確かに少しえぐ味のようなものはありますが、特に大きな癖もなく、チョウ目幼虫(言わゆるイモムシ・ケムシ系)が付きやすいように感じます。
が、ありがたいことにほとんど付かないんですよね。栽培している間、植え付け時に2株ネキリムシにやられましたが、その後は2匹しかイモムシを見ていないんですよね。
アブラムシもカメムシも見た限り付いていませんね。
ただ1種、そこそこ困るRau dềnの葉を食べる虫は「オンブバッタ」です。
オンブバッタはRau dềnを見ると、たいてい付いてますね。ただ、イモムシのように大食漢ではないので、それほど大きな食痕を一晩で付けることはないですが、積もり積もると結構な穴ボコだらけになります(^^;
ただ、全般的にはやはり害虫が少なく、見つけたら遠くに投げれば良いし、また病気らしい様子も観られないので、今のところ丈夫で育てやすい野菜であると言えます。
Rau dền(ヒユナ)の採種
頂いた種がRau dền(ヒユナ)であると分かり、ミレイでも使うとのことでしたので、来年以降も継続的に栽培していこうと思います。
Rau dềnは1年草なので、来年も栽培するには種を採らないといけません。そこで数株、収穫せずに種採り用に継続して育てました。
また、葉の色彩バリエーションが豊富なので、遺伝的にどうなのだろう?という興味もあり、また、料理によってはベタシアニン溶出が気になるものもある可能性や、逆に栄養の観点からベタシアニンが多いものが好まれる可能性もあるので、緑タイプ1株、赤タイプ1株、中間タイプ3株を種採り用にしています。
前述の英語論文の他、以下の日本語文献でもわかりやすくベタシアニンの機能について解説してありますよ。
野菜用アマランサスの葉色と機能性成分
特産種苗 No 8. 大場伸哉 村上芳哉 中野浩平 嶋津光鑑
ちなみに上記文献にある通り、岐阜県美濃市では赤タイプの表現型を強く残した栽培品種を仙寿菜(岐阜大学が開発と商標登録)と呼び、特産品としているようです。
一方、自分が目を付けている点は、Rau dềnがC4植物であることです。
C4植物は光合成速度が光強度にほぼ比例し、上限も無いほどの二酸化炭素固定能力があります。Rau dềnが酷暑・好天時に成長速度が異様なほどであるのは、このことが関係していると言えます。
何が言いたいかといいますと、ベタシアニンの生産量も高温・高光強度下では多くなるので、気温も晴天率も高い群馬県のA市(うちの畑)では持って来いの野菜なのではないかと!
話を元に戻します(^^;。以下の写真のように種採り用の株に花芽が観られたのは8月14日でした。この大きさですと、もうちょっと早く出ていたと思います。
花芽の成長も早く、長く長く伸びていきます。そして9月に入ると花も満開(?(笑))を迎えます。
収穫せずに育てた株は、想像以上に大きくなりました。高さも1.5 mくらいあり、重くて倒れるので支柱も必要です。
花は咲いているもの(白く雄しべ?雌しべ?出しているもの)もある傍ら、熟して茶色くなっているものもあり、まばらに咲いていくようです。
そして赤株の花の一部がだいぶ茶色くなってきましたので、種の試し採りを9月26に行ってみました。
採種方法は茶色くなった穂をモミモミしながら崩していくと黒い種がこぼれてきます。花殻はフッと息を吹きかけると飛んでいくので、種と分離できます。
試し採りではあったのですが、想像以上にたくさん採れますね。種も食用になるのが良くわかります。5株分採ったらかなりの量になりそう(^^;
最終的に採ったあとには、追記しますね。
おまけ 男料理 Rau dền(ヒユナ)編
さて、今回の男料理 Rau dền(ヒユナ)編では、ベトナムの某お宅で頂いた覚えがある、赤いスープを再現(?)してみましたので、ご紹介します。まぁ再現できてはいませんけれど(^^;
材料は以下の通り。
- Rau dền 適量
- 玉ねぎ 中球1個
- 鳥モモ肉 1枚
- サラダ油
- ニンニク 2片
- 塩
- 生姜 1片
- タバスコチリ 1/3本
- 鳥ガラスープの素 粉末適量
- ブイヨン 粉末適量
<作り方>
ニンニクを薄輪切りにし、切った玉ねぎと荒く刻んだタバスコチリと共に鍋の中でサラダ油で炒めます。
一方で鳥モモ肉は一口大+αくらいの大きさに切り分け、ラップをしてレンジで1分30秒チンします。
ちなみに所属する「エンドトキシン研究会」という学会で、ギランバレー症候群が生(生焼け)の鶏肉食(生鶏肉にいる菌)で発症が誘導されると知って、鶏肉の火の通し方にちょっと警戒感があります(^^;
炒めたニンニク・玉ねぎ・タバスコチリの鍋の中に水800 cc程度入れ、チンした鳥モモ肉を染み出た肉汁と共に加えます。
沸騰したら弱火にし、Rau dềnを加えてしんなりするまで茹でます。
最後に塩、鶏がらスープの素、ブイヨンを好みの味になるように(笑)加え、さらに弱火で1~3分ほど弱火で茹でて完成です!少し薄味程度が良いかもしれません。
結構シンプルな味ですが、Rau dềnの味も楽しめる美味しいスープになりますよ。
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